言語化が未来を切り拓く

自分でつくりだした持論に手応えがあると、大事にしたいという気持ちが強まり「誰にも教えたくない!」と思ってしまうかもしれません。 実際には、隠し持っているよりもどんどん公開してしまったほうが多くのメリットがあります。順番に説明します。

公開しないと比べられない

仕事における強みや持ち味というのは相対的なものです。あなたにとっては当たり前のことでも、他の人から見ると「あなたにしかできない特別なこと」かもしれません。逆も同じで、あなたが苦心して編み出したノウハウも、当たり前のように実行している人が周りにたくさんいたら強みとして成立しません。

このような事は自分一人では判断できないため、持論はずっと隠し持っていてもあまりメリットがありません。同僚との立ち話、部署やチームの会議、会社の垣根を超えたコミュニティなど、どのような場でも構いませんので、「こんなやり方を見つけたよ」「この方法はどうかな?」と思い切って公開してみましょう。

「なるほど、それはいいね!」「私も早速やってみたら良かったよ」というように、簡単にマネされてしまったら? …教えてすぐにマネされる程度のやり方であれば、あなたと他の人との違いを生み出す決定的な要因にはなりません。自分の強みを失ったのではなく、部署やチーム全体の業務品質の向上に貢献できたと考えましょう。どのような会社でも「やり方を開発する力」の高い人が求められる時代です。

一方、自分のやり方を公開すると「それは君だからできるんだよ」と言われることもあります。簡単にはマネできないやり方。磨き続けていくと、いずれはあなただけの強みや持ち味になるかもしれません。

発信が機会を引き寄せる

周囲に持論を公開する時に、自分の思いや意見も合わせて発信してみます。たとえば、作ったこの持論についてどう思っているか。どこは気に入っていて、どこは気に入らないのか。この持論を発揮できる機会を求めているか。この分野について更に腕を磨きたいと思っているのか。そうではなく、この持論で仕事を効率化できたら、もっと他の事をやる時間を増やしたいのか。

気持ちを乗せて届けると、どうなるか。以下のような機会や情報が引き寄せられます。

「じゃあ、この案件で試してみる?」
「ひょっとして、こういう仕事に興味ある?」
「それはこんな仕事でも活かせると思うよ」

もちろん必ずという保証はなく、遭遇する確率が高まるだけです。
でも発信しない限り、可能性はゼロです。

これは持論の公開に限った話ではありません。仕事上のコミュニケーションの中に自分の意志を込めることが、自分のキャリアを築いていく上で今後ますます重要になっていくと考えられます。

「今の自分」を言語化する

かつては、所属する組織や会社から示された階段(キャリアパス)を登っていけばよいという考え方が一般的だった時代もありましたが、現在はそうではありません。

キャリアパスが全く無くなったわけではないのですが、組織の年齢構成比や外部環境の変化などによって、言われた通りに経験を積んでいけば約束された未来(任せてもらえる仕事や職位)が用意されているという保証は無くなりました。5年後10年後に今の事業そのものが続いているかどうかもわからない時代です。「今の子どもたちの大半は、今はまだ存在していない仕事をするだろう」とも言われています。

キャリア開発については時代によって色々な理論や主張があります。先が読めずに具体的な将来目標が立てにくい今のような環境では、予定通りに経験を積むことにこだわるのではなく、偶然訪れた機会をどうやって活かしていくかが大切だと言われるようになってきました。

偶然の機会は、ただ黙っているだけではなかなか訪れません。
「この仕事、あの人にどうだろう?」と思うのは、その人がどんな人かを知っているからです。周りの人はあなたの事をどのくらい知っているでしょうか。どんな仕事に関心があり、仕事のどんな要素に夢中になり、どんな悩みや不安を持っているのか、知っているでしょうか?

仕事やキャリアに関して自分の事を伝えようとする時に、主義とか信念とか一貫性とか、ぶれない軸のようなものを持っていない事を恐れる必要はありません。ずっと同じであり続ける必要はないのです。

「今の自分」を言語化すればいい。

今は自分の仕事についてどう思っているか。どんな方向に関心が向いているか。以前と変化しているなら「昨年はこう思っていたが今は違う」ということを言葉にします。

先輩や上司を含めたみんなが同じ場所で同じ時間を長く過ごし、たわいもない話で盛り上がるような時間がたっぷりあったなら、おそらく意識的に言語化しなくても、普通に働いているだけでお互いの事が分かり合えたでしょう。しかし、みんながちょっとずつ忙しくなり、場所と時間を共有することが難しくなってきたのであれば、わかり合うためには意識的な言語化が必要です。難しいことではありません。日々のビジネスライクな必要最低限の報告や連絡の中に、意見や感情をほんの少し付け加えるだけです。

言語化する力が、あなたの未来を切り拓きます。

・本ページは、書籍「長く成長していくための 仕事における言語化能力」の内容の一部を限定公開しているページです。他の公開中のトピックは「目次」から確認してください。

「長く成長していくための 仕事における言語化能力」
A5判 155ページ ¥1,800(税別)