達成してもうれしくない目標
これからやる仕事を「言語化する」と言われると、まず思いつくのが、あれをやるこれをやると、やることの一覧(To-Doリスト)を書き出すことです。ただ、これだけでは後で「やった/やらなかった」の判断しかできません。
仕事の良し悪しの基準を明確にするというのは、目標を設定することに近いです。仕事であれプライベートであれ、何かしら目標を立てたことがある人は多いと思いますが、目標の立て方や表現の仕方を学んだことはありますか? ある会社での例を紹介します。
ある会社の管理職研修で「週末の目標」という課題がありました。 部下へ与える仕事の目標をどうやって作るか? ということを考えるための練習です。
受講者からは、以下のような目標が挙げられました。
・部屋の掃除をする ・犬を散歩に連れて行く ・リフレッシュする ・家族サービスをする ・読みかけの本を読む ・旅行計画を立てる ・旧友と飲む 息子と一緒に遊園地に行く
「息子と一緒に遊園地に行く」という目標を挙げた方に、くわしい話を聞きました。どうやら、息子さんとの「心の距離」が遠くなりつつあることが最近の悩みだったようです。
仕事が忙しくて、息子が起きてこないうちに会社に出かける。寝てしまってからしか帰宅できない。土日もなかなか休めない。最近息子と会話をしたのはいつだっただろうか。一緒にいるわずかな時間さえも会話が減ってきている気がする。なかなか懐いてこない。まずい。数少ない会話が「また来てね、おじさん」だけになってしまったらどうしよう。
よし、今度の週末はしっかり休みをとって、遊園地に連れていこう!…このような背景がありました。
さて、後日の話。
この受講者は無事に週末仕事を休むことができました。張り切って息子さんを遊園地に連れて行くことができたそうです。「良かったですね! これで心の距離も縮まったのではないですか?」と聞くと、こんな答えが返ってきました。
「遊園地には行けたのですが…。あの…実は、帰り際に息子に泣かれてしまいまして。『もうパパとは一緒に来たくない!』って。ショックですよ。せっかく休みが取れたのに」
そして、こう聞かれました。
「立てた目標は達成しました。でも、これで良かったのでしょうか?」
たぶん(いや、きっと)良くないです。
遊園地で何があったのかわかりませんが。
さて、これはプライベートのエピソードでした。もしこれが仕事だったらどうでしょう? 「目標は達成したのに誰も嬉しくない」ということです。一体、何のための目標なのか。
すると、目標は作る必要がないものでしょうか?
そうではありません。
目標の作り方が間違っていただけです。
先述の受講者は「息子と一緒に遊園地に行く」という「手段」を目標にしてしまいました。手段は「期待される成果」ではありません。そこを混同してしまった。
「期待される成果」は、このエピソードの場合は「息子との心の距離が縮まった状態になる」「息子が今まで以上に懐いてくる状態になる」などと表現されるでしょう。遊園地に行くことは、そのための手段の一つです。もしかしたら、遊園地には行かずに公園でキャッチボールをするという手段でも良かったもしれません。
手段を目標にしてしまうので、「でも遊園地に連れて行ったのだから、いいだろう」と開き直ってしまう。そして家族に「ただ連れて行けばそれでいいと思っていたんでしょう!?」などと怒られる。
同じ事が仕事でも起こります。
決めた手段をその通りにやったとしても、期待される成果が達成できなかったら、それは仕事をしたとは言えません。どれだけ苦労したとしても「言われたことをやりました」は単なる言い訳に過ぎません。
では、どうすればいいか?
「ゴールイメージ」を明らかにし、それを目標にすることです。
具体的には「手段とゴールイメージを分ける」ことが求められます。
次のページから、ゴールイメージについて詳しく解説します。
・本ページは、書籍「長く成長していくための 仕事における言語化能力」の内容の一部を限定公開しているページです。他の公開中のトピックは「目次」から確認してください。