◯◯という意味では同じ

なぜうまくできたのか/できなかったのかを明らかにして次の仕事に活かすというのは、「全く同じ条件で、全く同じ仕事をやる」という場合なら、それほど難しくはありません。前回の仕事で作成した3点セットを、次回やる時に忘れずに当てはめるだけです。成功談も失敗談もそのまま活用できます。 

しかし昨今は、成功パターンが見つかって細かいやり方や手続きまで固まった仕事は、次々と自動化されたり外部委託されたりするようになりました。そしてそもそも、長期間にわたって通用する成功パターンが生まれにくくなりました。

たくさんの外部要因(自然災害、感染症、経済政策、国際情勢、技術革新など)によってお客様や競合会社との関係が変わり、それによって自社が提供する商品やサービスも変わる。すると当然、その商品やサービスを作り届けるための1つ1つの仕事のやり方も変わります。どんな業界や職種であっても「人間が同じ条件で、同じことを、同じようにやる機会」がどんどん少なくなっています。

あなたの仕事もそうです。ようやく慣れてきたと思った頃に、急に新しい仕事が指示されます。

・「X社だけでなく、Y社の営業も担当するように」
 …Y社は業種も規模もX社と全く違う。どうしよう!

・「来週から、この社内プロジェクトのサブリーダーをやってほしい」 
 …未経験のプロジェクトでいきなりサブリーダー? どうしよう!

・「今度の新人研修から、君に講師もやってもらうよ」 
 …去年までは資料作りだけで良かったのに。どうしよう!

・「新しい事業部に異動してもらうことになった」
 …どうしよう!

このような事態に直面すると、過去の経験は全て無駄となり一からやり直さなくてはいけないように思いがちですが、やり方次第では過去の経験を活かすことは十分に可能です。

上記の4つの例の「その後」を紹介します。
それぞれで、過去の経験を役立てていることがわかります。

<例1>
上司:「Y社の営業もうまくいっているようだね。これまでのX社とは全く違うタイプの会社だから、もっと苦労するかと思ったけれど、良くやっているね」
部下:「はい。最初の関係作りという意味ではX社に対してやった事と同じでしたので、今のところ何とか進んでいます」

<例2>
上司:「例の社内プロジェクト、君の事をリーダーが褒めていたよ。未経験なのにサブリーダーとしてよく動いてくれるって」
部下:「本当ですか!? これからも頑張ります。サブリーダーの仕事のうち成果物を集約する部分については、先月まで担当していた業務と同じだったのでスムーズにできました」

<例3>
上司:「新人研修の講師、無事に終わったそうだね。ご苦労様」
部下:「ありがとうございます。相手が違いますが、ファシリテーションという意味では、これまで何度もやっていたユーザー会の進行と同じだったので、それほど準備に苦労せずに済みました」

<例4>
上司:「この事業部に来てまだ日は浅いけれど、このレベルのレポートを作れるならもう安心かな」
部下:「早めに実務レベルの担当者を巻き込んでおくという部分は、前の事業部でやっていた仕事と同じですし、そのあたりのポイントはわかっているつもりです」

上記の4つの例には同じ特徴があります。

「◯◯という意味では同じ」「◯◯の部分は同じ」

という言い方をしていますね。この「◯◯」が、過去の仕事と今の仕事の共通点です。上記の4つの例では共通点は順に以下の通りです。

 例1:「最初の関係作り」
 例2:「成果物の集約」
 例3:「ファシリテーション」
 例4:「実務レベルの担当者の巻き込み」

過去の仕事と次にやる仕事の種類が違っていても、全体ではなく部分でみると似ている所を見つけられることがあります。すると、その部分については過去の経験を活かすことができます。初めての仕事でも「まったくのゼロからスタート」ではなくて、「この部分はあの仕事と同じだから…」とか「ここまでなら何とかやれそうだ」と考えることで、ある程度の不安を解消することができます。そして「この部分は、前と同じ要領で進めれば2~3日くらいで終わるだろう」という見通し感を持つこともできます。

そのためには、過去の経験から学んだことを自覚していて、必要になった時に思い出せるようにしておかなければなりません。上記の例であれば、自分の中で「最初の関係作りはこれがポイント」とか「成果物の集約をする時の注意点はこれとこれ」というように整理しておく必要があります。そうしておかないと、いざという時に「前にも同じような事があったような気がするけど…はて何だっけ?」と、経験したことをうまく活かすことができません。

つまり過去の「うまくできたこと」「できなかったこと」を、個別の思い出としてそのままにしておくのではなく、「こういう時にはこれが大事」というような形の、自分なりのコツやノウハウに変換するということ。

学生時代、初対面の同級生とおそるおそる会話を始めて、「おお!君も○○県出身か!」と同郷であることがわかった途端に、たちまち親しくなったというような経験のある方はいますか? この経験を、

・初対面の人と話す時は、共通点が見つかると仲良くなりやすい。

という形で自覚できている人は、新入社員同士の顔合わせや、初対面のお客様や関係会社との打ち合わせなどでも、同じようにできる可能性が高くなります。共通点は出身地だけではなく、仕事の事でも、趣味の事でも、なんでもいいのです。

このように過去の経験を今後に役立つ形に変換することを「持論化」と呼びます。これから、持論化の方法を詳しく解説していきます。

・本ページは、書籍「長く成長していくための 仕事における言語化能力」の内容の一部を限定公開しているページです。他の公開中のトピックは「目次」から確認してください。

「長く成長していくための 仕事における言語化能力」
A5判 155ページ ¥1,800(税別)