種まき、発見、収穫
与えられた仕事の中で、やりながらより良いやり方をつくる。
それによって、その仕事の品質や効率を高めたり、また別の高度な仕事を任されたりすることで、長く成長し続ける。
そのようなことをやるのは、器用な人や、直感が鋭い人や、アイデアや解決策がどんどん湧き出てくるような人でないと難しいと思うかもしれません。私たちも最初はそう思っていましたが、多くの人を取材していくうちに考えは変わっていきました。
やりながらより良いやり方をつくることが上手な人たちに共通していたのは、「言語化能力が高い」ことでした。言語化能力はもともとの素質やセンスといった類のものではなく、意識して取り組めば誰でも少しずつ上達させることのできる能力です。
ただ言語化といっても、どんな事でもいいからたくさん話したり、ひたすら書き出したりすればいいというわけではありません。「長く成長していくための、仕事における言語化」とは具体的には、
・仕事にとりかかる前に行う言語化(種まき)
・仕事をやり終えた後に行う言語化(収穫)
の2種類に分けられます。それぞれの意味や関係について、
〔種まき〕→〔発見〕→〔収穫〕
というつながりで、順に説明していきます。
軸となるのは「発見」
より良いやり方をつくりだすという行為の中心であり、軸となるのは、仕事の中での「発見」です。
「そうだったのか!」「ひょっとして…!?」「やっぱり!」というような形で、仕事を進めていく中でポン!と出現します。
発見の「収穫」
そのような発見を、見過ごしたり、忘れてしまったりしないために行うのが、仕事をやり終えた後の言語化です。
よく「仕事からきちんと学びなさい」とか「振り返りが大事」と言われます。では、振り返りとは何か? 何をどうすれば、ちゃんと振り返ったことになるのでしょうか。振り返りをしているように見えても、同じ失敗を繰り返してしまったり、せっかくうまく出来た事が再現できなかったりするのは、なぜでしょうか。
また、過去の仕事から学んだことが、そのまま次の仕事に役立つとは限りません。一見、同じように見える仕事であっても、納期や要求品質、使えるリソース、一緒に取り組む人との関係性など、いくつかの条件が異なっていることは少なくありません。さらに変化の多い環境であれば、これまでとは全く異なる新しい仕事にチャレンジしなくてはいけないこともあります。そのような時はどうすればいいでしょうか。
経験を着実に積み重ねられる人、過去の経験を次の仕事に活かすことができる人は、やり終えた仕事についての言語化を丁寧に行っています。このことを本書では「発見の収穫」と呼びます。
発見の「種まき」
仕事の中からより多くの発見をつかむ、つまり発見の収穫量を増やすためにできることは何でしょうか。抜け漏れの無い収穫を心がけるだけでなく、発見の数そのものを増やすという方法があります。
仕事の中での発見を増やすために、仕事にとりかかる前に行う言語化のことを、本書では「発見の種まき」と呼びます。色々なことによく気づく人は、実はその場のひらめきではなく、それなりの準備をしていることが多いのです。
そもそも、与えられた仕事を間違って理解していると、間違った発見しか得られません。ミスややり直しを防ぐため、さらには「頑張って工夫した」が「余計なお世話」になることを防ぐためにも、自分の仕事を正しく理解したり、仕事の発注者と理解をすり合わせたりすることは大切です。その時に求められるのが、自分の仕事を言語化する力です。
「これから自分が行う仕事は何か」だけではなく、「その仕事に取り組む時、どこに意識を向けるか」ということまで言語化できると、より発見を増やすことができます。詳しくは後述しますが、人は何か解決策を思いつくと実態をきちんと見ることをおろそかにしがちです。決めつけずに実態を見られるようになると、発見の数も増えていきます。
本書は、この「種まき→発見→収穫」という枠組みで構成されています。前半は「種まき」、後半は「収穫」について、それぞれ何を、なぜ、どのように言語化していくのか、さまざまな会社の取材や研修などで得られた具体的なエピソードも交えながら解説していきます。
ここまでのまとめ
・日常のささやかな工夫から、前例の無い新しい事業まで、あらゆるレベルの仕事で「やりながら、より良いやり方をつくる」ことや、それによって長く成長していくことが求められています。
・より良いやり方を作ることが上手な人たちの共通点は、仕事における「言語化能力」が高いことでした。具体的には、仕事にとりかかる前に行う言語化(発見の種まき)と、仕事をやり終えた後に行う言語化(発見の収穫)の二つに分けられます。
・本ページは、書籍「長く成長していくための 仕事における言語化能力」の内容の一部を限定公開しているページです。他の公開中のトピックは「目次」から確認してください。