振り返りと感想は別物
仕事を通じて得られた発見をつかみ取り、次の仕事や未来の機会に活かしていくためにはどうするか。ここからは「発見の収穫」、すなわち仕事をやり終えた後の言語化について考えていきます。
よく使われる言葉で言い換えると「仕事の振り返り」です。本書冒頭で紹介した「積み重ねる人」の特徴は、仕事の振り返りをていねいに行っていることでした。そこで、
・振り返りとは何か?
・振り返りを「ていねいに」やるとは、具体的には?
という順番で解説を進めます。
未来のための振り返り
仕事の振り返りとは、終えた仕事(または途中まで進めた仕事)の出来栄えや、やり方の良し悪しを明らかにすることです。なぜ、明らかにする必要があるかというと、その後の仕事をより良いものにするためです。もちろん終えた所までの仕事ぶりを評価するという意味もあるのですが、基本的に未来のためだと思っておいたほうがいいです。
それは、職場で「振り返りができていない!」と言われるのはどんな時かを考えればわかります。だいたい同じ失敗を繰り返した時か、一度成功したことを繰り返すことができなかった時のどちらかです。いずれにせよ過去の経験を上手に未来に活かすことができなかった時に「振り返り」が問われます。
もしかすると、この特徴が振り返りを難しくさせているのかもしれません。その仕事を終えた時ではなく、その次の仕事の結果が良くなかった時に、時をさかのぼって1つ前の仕事の振り返り方が悪かったのだと指摘される。今ごろそんな事を言われても…と思ってしまいます。
したがって、振り返りはかなり意識的に行うことが求められます。
いわゆる「感想」とは違います。
「面白かったなあ」
「苦労したけれど、自分なりに頑張ったと思う」
「次は自分で企画もやってみたい」
これらは全て感想であり、仕事の振り返りの中で言語化すべきことの、ほんの一部に過ぎません。
記憶力がないから、言語化なんて無理
ある会社で、新規受注を獲得した2人の営業担当者に「受注の決め手は何でしたか?」と質問をすると次のような答えが返ってきました。
(Aさん)
「我が社のサービスの良さを信頼してもらえるように、とにかく頑張りました。先方にその熱意が伝わったのだと思いますね」
(Bさん)
「決め手は1回目のプレゼン後の対応でした。プレゼンに参加した先方の部長が浮かない顔をされていたので、思い切って担当者に聞いてみたところ、過去に似たようなサービスを導入しようとして現場から大反発を受け、失敗した経験があるとわかりました。そこで担当者と一緒に現場への展開プランを作って最終提案に盛り込んだことで、最終的に部長から高い評価をいただくことができました」
Bさんのほうが、自分の経験を詳しく言語化しています。同じ状況が訪れたら成功を繰り返す確率がAさんよりも高そうにみえます。
仕事で優れた成果を出し続ける人・成長のスピードが早い人は、経験の言語化に優れています。ある企業では、実際に社員を対象に調査を行ったところ、業績の高い人ほど自分の経験について詳しく説明できるという結果が得られたそうです。
「私は記憶力がないから、言語化なんて無理です」と思う人がいるかもしれませんが、逆に、言語化をすることによって自覚が強化されると考えてみてはいかがでしょう。
話しているうちに思い出すことはたくさんありますし、「ああ自分はこれが一番言いたかったのか」と、言語化する過程の中で気づくということもあります。それに、そもそも記憶力に頼る必要は無くて、忘れる前に書き出しておけばいいのです。メモが残っていれば後からいくらでも活用できます。
したがって、忘れてしまう前に、早めに経験を言語化しておくことが大切だということがわかります。次は、言語化をどのように「ていねいに」やっていくのかを考えていきましょう。
・本ページは、書籍「長く成長していくための 仕事における言語化能力」の内容の一部を限定公開しているページです。他の公開中のトピックは「目次」から確認してください。