覚え書き
当社書籍を用いたオンライン研修での発見を中心に
オンライン研修では「紙のテキスト」が重要
画面に全部入らないストレス
当社が提供してきた集合研修は、今夏以降すべてオンラインになりました。講師としてのふるまい方や使用機材など多くの変化がありました。ただ、オンライン化しても変わらないこともあります。その1つが、当社書籍をテキストに使っているということです。書籍を事前配布して、読了を前提として構成された研修のスタイル(講師が話すだけの時間は極めて短く、ほとんどの時間が参加者同士の対話や共同作業に使われます)は、2014年頃から継続しています。
オンライン研修を実施するときに「テキストが紙になっていること」がとても重要だということに気づいたのは、実際にやってみた後でした。前述のように何年も前からやっていたことなので、オンライン化を見越していたわけではありません。結果オーライでした。
テキストの電子化については以前から多くの議論があります。トッパン・フォームズ社の研究では、「反射光で読む紙媒体の方が、透過光で読むディスプレイよりも情報を理解させるのに優れている」ことが確認されています。個人的には、確かに紙の方が頭に入ってくる気がします。完成したと思った原稿を印刷して読んだらまだミスが残っていたという経験は何度もあります。他にも、反射光(紙)で文字を読むときは「能動的・分析的」になり、透過光で読むときは「受動的・パターン認識的」になるという研究もあるようです。またスマートフォンやタブレットは透過光ですが、電子書籍の中でもAmazon Kindleは反射型のデバイスですから紙に近いかもしれません。
さて、今回気づいた「テキストが紙になっていることの重要性」は、これとは違う理由です。
端的に言うと「画面に全部入らなくて、しんどい」。
下のような、デスクトップPCなどの大画面(20インチ〜)であれば問題ありません。Zoom/Teams等の講義画面やチャットウィンドウ、自分のワークシート(Word Excel等)、テキスト(PDF等)など複数のウィンドウを開いていても閲覧性が確保されます。それぞれのウインドウが重なっても、どこに何があるのかはわかるので必要な時にすぐ切り替えることができます。
<20インチ以上の大画面>
これがノートPC、特に15インチ未満くらいから徐々に苦しくなってきます。少し画面が小さくなった途端に複数のウィンドウを同時に表示できなくなり、見落としやストレスが生じてしまいます。
研修テキストを簡略化して、できるだけ講義スライドに情報を集約しようとすると、今度は講義スライドで伝えなくてはいけない情報量が増えて、小さな文字ばかりになってしまいます。
<画面が小さいと、しんどい>
ある会社で8月に実施したオンライン研修(管理職向け)では、参加者の中で1人だけ、やたらチャットに相づちやコメントを入れてくれる超積極的な方がいました。その方、画面の向こうの顔はなぜかいつも左上の方ばかりを見ています。なんでだろうと伺って納得しました。会議室を1人で貸し切り、プロジェクタに接続して大きなスクリーンに投影して見ていました。手元のノートPCでは小さくで見えないサイズのウィンドウでもスクリーンならよく見える。だから複数のウィンドウを並べて表示させられる。ナイスアイデアです。ただ、いつもみんなができる方法ではありません。
書籍をテキストにしたオンライン研修の場合、参加者の基本画面は下図のようになります。
紙のテキストを使うことで画面に余裕ができ、見落としやストレスを減らすことができます。そして詳しい情報は紙のテキストに書かれているため、講義用スライドはポイントやキーワードだけを表示すればよくなり、メリハリをつけて伝えることができます。
紙のテキストでグループワークをガイドする
グループワークをする時に従来の集合研修では、以下のようにガイドしていました。
「まずグループ内で発表順を決めてください。そして1人ずつ、自分が書いたワークシートを他の人に見せながら、今スクリーンに表示されている手順に沿って説明をしてください」
「先ほど追加で配布した資料に書いてある質問リストを使って意見交換をしてください」
このようなグループワークをオンライン研修で行う(今はZoomのブレイクアウトルームが定番だと思われます)時には注意が要ります。「グループワークの進め方」が記載された講師スライドが見えるのはメインルームだけです。ブレイクアウトルームに分かれると見えなくなってしまいます。そもそも、作成したワークシートを画面共有で見せ合うようなワークをやるとしたら、二つの画面を同時に共有することができません。
<講義スライドはブレイクアウトルームでは見えない>
当社書籍は、研修のテキストとして使われることを想定して作成しています。そのためグループワークを進める際に必要な情報もすでに記載してあります。
たとえば「書き出した『仕事のゴールイメージ』を共有する時のチェックポイント」や「経験をより掘り下げて言語化するための質問リスト」「持論化のプロセス」など。ブレイクアウトルームに分かれる前に、ただ一言「本の何ページを使って進めてください」と言うだけです。参加者は手元で書籍の該当ページを参照しながら会話をすることができます。
このことは本当に結果オーライでした。上述の情報は旧バージョンの書籍の中にはほとんど記載されていなくて、研修の時に追加資料として配布していました。それを、研修当日の配布物を極力少なくするために書籍の中に組み込んでしまおうという判断をして、現在のバージョンに改訂したばかりでした。
さらに、集合研修時に講師用のスクリーンに投影することの多かった「ワークシートの記入例(過去の参加者の作成例)」も、書籍にたくさん追加しました。そのためオンライン研修でワークシートを作成する時はPC画面を広く使うことができます。
集合研修をオンライン化するためには、ライブにせよe-Learningにせよ「届けるコンテンツ」が必要です。集合研修の時と同じ講義をそのまま録画すればOKというタイプの内容もあれば、それだけでは不十分で作り込みが必要というタイプもあるでしょう。当社の場合はオンライン化とは無関係に、書籍としてもともとコンテンツ化が済んでおりました。それが上述のような観点でオンライン研修にも役立つとは思いませんでした。
なお、書籍を事前に読んでおくというスタイルについては、ある企業の人事部の方から「反転学習」としてのメリットも指摘されたことがあります。反転学習は集合研修よりもオンライン研修でその重要性が増すことが考えられます。それについてはまた別のトピックにまとめてみようと思います。
(2020.11.17)