覚え書き
当社書籍を用いたオンライン研修での発見を中心に
オンライン研修のグループワーク(後編)
前回の続きです。
料理の楽しさ
2020年の9月、ある企業のマネージャー研修をオンライン(Zoom)で実施しました。
「マネージャーになったばかりの人」が対象者です。
どんなに仕事の経験を積んだ人でもマネージャー1年目は不安です。
自分はうまくできているのだろうか。
こんな時は部下にどう接すればいいのか。
他のマネージャーはどうしているのか。
板挟みになって辛いのは自分だけなのか。
そこでこの研修では、これまでのマネジメント業務での発見や成功談・失敗談を持ち寄り、編集して、自分たちなりの知見(持論)としてまとめてもらいます。そこそこ人数がいれば、自分の悩み事について、他の人がすでに解決策を編み出しているということもしばしば。経験情報を言語化して共有するだけで結構な数の問題を解決し合うことができます。
こういうタイプの研修プログラムの場合、講師の役割は何かを教えるというよりも、編集作業を手伝うような役回りをします。感覚的にはライター仕事で取材をやっている時の感覚に近いかも。
いい料理(知見や持論)は、いい素材(持ち寄った経験談)から生まれます。
ですから元の経験談が少なかったり偏っていたりすると、発表内容もそれ相応のものになります。
ただ一番大事にしているのは、どんな素材であれ、
「料理方法(経験の言語化〜持論化のプロセス)を体験して理解してもらう」
ということです。そしてあわよくば、
「料理って楽しいな!」
と思ってもらいたい。
そこまで到達できたら、もう研修は必要ありません。
今後は自分たちの力で「仕事のコツの編集会議」を何度でも開催できるでしょう。
時間をずらして全部聞く
この研修の、今年度の参加者は20人でした。
もし集合研修だったら以下のように進めていたでしょう。
(1) 4人×5グループに分かれて経験談の共有と編集作業を実施
(2) クラス全体で共有(1グループずつ発表)
しかし、今春に予定していた集合研修は延期。
改めて9月にオンライン版に設計し直して実施することになりました。
オンライン化に取り組む中でお客様に色々相談や提案をしました。
その1つが「全グループへの介入」でした。
どういうことか?
まず上記(1)と(2)の日程を分けます。
そして(1)を5つのグループごとにオンラインで実施。
具体的には、
(1-A) 9月7日 10:00〜12:00 グループA(4人)
(1-B) 9月7日 15:00〜17:00 グループB(4人)
(1-C) 9月8日 13:00〜15:00 グループC(4人)
(1-D) 9月9日 10:00〜12:00 グループD(4人)
(1-E) 9月9日 13:00〜15:00 グループE(4人)
↓
(2) 9月15日 13:00〜15:30 全体発表(20人)
こんなスケジュールでした。
そして講師はこの全てに参加しました。
集合研修では不可能な全グループへの介入を、時間をずらしたオンライン開催にすることで実現。
もちろん講師はグループの数が増えるほど大変になりますが、今後のオンライン研修のあり方を探るためにどうしてもやってみたかったのです。お客様も「やってみましょう」と賛同してくれました。
(1)のA〜Eでは、各回とも講師は前半の1時間だけ参加しました。
全員の発表を聞いて、もう少し教えてほしいなと思った所は質問をして掘り下げて、そこまで。
出揃った経験情報をどうまとめて発表するかは4人に任せます、と言って途中退室しました。
オンラインのグループワークは、集合研修より快適な面もありました。
まず集合研修のように他のグループの声が気にならない。
そして各々が事前に作成した資料を画面共有しながら紹介しあうという方法は、集合研修(紙ベース)よりもはるかに読みやすく、内容が頭に入ってきました。
ある参加者が終了後のアンケートに書いていた以下のコメントが印象的でした。
「初めての感覚だった。他メンバーが発表している時は自分とのマンツーマン会話のように感じ心地よい緊張感を保てた。それにより一部始終聞き逃さない結果となり、積極的な質問や助言をしている別人のような自分になっていた」
オンラインによって「発言がかぶる」ことを心配していましたが、4人なら大丈夫でした。ZOOMだと発言者の枠に色がつくのがわかりやすい。ただ5人以上だとどうか? 6人超えるなら3人×2グループにした方が良さそうだという感覚でした(もちろん話す内容にもよりますが)。
話して欲しかったのは、それじゃない。
そして翌週の全体発表へ。
「私たちのグループで出てきたエピソードの中で、皆さんにも役に立てそうなものをピックアップしてまとめました。まずは…」という具合で、A〜Eグループごとに発表してもらいました。
発表中に、強烈に感じたことがありました。
話して欲しかったのは、それじゃない。
(Xさんの事例を中心に紹介するのは良いのだけれど、Yさんのあの話は? ささやかな出来事だけど、他のマネージャーにも起こりうる貴重な経験だったと思う。ぜひ発表に入れて欲しかった…)
(Zさんの話は「何をしたか」だけではなく「なぜそうしたのか」が大事で、そこの分析が他のグループには無い独自の視点で良かったのに。省略せずに説明して欲しかったなあ…)
こういう事が頻発したため、全グループの発表が終わった後に「発表の中には登場しませんでしたが、個人的になるほど!と思ったものを紹介していいですか?」と言って補足解説をしました。
研修中の発表で「話して欲しかったのは、それじゃない」という強い気持ちが湧き上がったのは初めてのことで、なぜだろうとしばらく考えました。以下、まだうまく言葉にできていない部分も多いのですが備忘録的に断片を残しておきます。
・「それじゃない」ということに気付けるのは、全員の発表を聞いた自分だけ。全員の話を知っていたから、1つ1つの話の独自性や関連性もわかっていた。全員の話を知らない参加者にはそこまで要求することはできない。部分最適が全体最適になるとは限らない。そこをうまく繋げるのが講師の役割になるのかもしれない。
・自分がグループワークに参加したとき。「今の話、もう少し詳しく教えてもらえますか?」とか「初回からそんなうまく出来たのですか?何か秘密があったのですか?」という質問をして、「ああ、そういえば…」と話してくれた続きの中に重要なポイントが現れることがあった。もし自分が参加していなかったら、その発見は埋もれたままだったかもしれない。
・そう考えると、今まで何年もやってきた集合研修は? 同時並行で行われるグループワークでは、周囲を歩いていても、たまたま近くにいた人の話しか聞こえない。おっ?という面白そうな話も、声の大きい人の物だけが聞こえてくる。ちゃんと聞けるのは、選択され整理された後のまとめの発表だけ。発表されずに埋もれてしまった知見や発見がもっとたくさんあったのでは?
・オンラインのグループワークなら、集合研修では出来ない方法で価値を作り出すことができそう。ただ全グループ介入はしんどい。参加するだけでなく前後の準備や整理の時間も含めると数倍の工数がかかる。当然費用も増す。今回のお客様は「これは各参加者にはすごくメリットのあるやり方。アウトプットの質も高くなる。通常よりも費用も高くなって当然だと思う。ただ、全てのオンライン研修でこれをやるのは、ちょっと大変」との事。自分も同意見。
・今回の経験を元に、オンライン研修のより良いやり方をもっと探っていきたい。オンラインだと「反転学習」の形式がやりやすい(反転学習については後日改めて)。たとえば事前課題の作り方を工夫することで、全グループ介入をしなくてもカバー範囲を広げることができるかもしれない。
(2020.10.30)