「気づき」と「仕事の定義」
「反省点はこれだけか」とか「もっと気づけたことがあったはず」と言われた時、その場でもっと時間をかけても、追加で思い出せることはほとんどありません。それは記憶力の問題ではなく、自分のやったやり方が良かったのか悪かったのかが、自分でもよくわからないからです。
洗濯物の干し方
ある夫婦の話。夫は家事に協力的で、時間がある時には積極的に洗濯や掃除をしてくれます。ただ少しだけ不満なのは、洗濯物の干し方が雑だということ。これじゃあ乾いた後にシワがつくじゃないのと、わざわざ干し直すこともしばしばです。妻は思い切って言いました。
「あなた、干してくれるのはうれしいけど、いつまでたっても干し方は上手にならないわね」
「なんで? 洗濯物の干し方に良い悪いなんてあるの?」
仕事は成功する時も失敗する時もあります。どちらであっても学ぶことはできるのですが、そのためには条件があります。それは、「何をもって成功/失敗というのか、その基準が事前に明らかになっていること」です。それがわからないと、後で「なぜうまくいったのだろう?」「なぜ失敗したのだろう?」と振り返って確かめることができません。本人の学習意欲の有る無しに関わらず、構造的に発見が得られないということです。
「ダメな時は注意されるから」といって仕事の良し悪しの基準を気にかけない人は、明らかにダメな時や、他人から注意されないと気づけない人になります。逆も同じです。うまくできたかどうかを自分で判断できない人は、ほめられた時しか発見が得られません。自分の成長が他者に依存している状態です。言われた時しか、学べない。
さまざまな「良い仕事」
お客様からの電話相談を毎日何件も受け付ける、サポートセンターの相談スタッフの仕事を例に挙げます。
あるスタッフは、「1分1秒でも早くトラブルを解決すること」が良い仕事だと思っています。仕事の中で気づいた事は何ですか? と聞くと、「もっと早く故障箇所を探り当てるために、質問の引き出しを増やさないといけない」「初めに○○を伝えておくと、スムーズに解決できることがわかった」というようなことを話してくれました。
別のスタッフは「お客様に共感を示し、ストレスを和らげること」が良い仕事だと思っています。同じように気づいたことを聞いてみると、「ただ申し訳ないと言うだけでは相手の怒りはおさまらない」「きっと○○にお困りなのではという言い方をすると、緊張感が…」というようなことを話してくれました。
どちらが正しいかではありません。 「良い仕事」の定義が違えば、気づくことも違うということです。
もし、さらに別のスタッフが「早く解決すること」と「お客様のストレスを和らげること」の両方を実現することが自分に任せられた役目だと思っているとしたら? おそらく得られる発見の量は倍になります。それに加えて「早期解決とストレス対処を両立させることの難しさ」のような、新たな発見も得られるでしょう。
さて、どのようにして「良い仕事」を定義すればいいでしょうか。自分一人で決めるわけにはいきません。仕事には必ず相手がいます。あなたに仕事を依頼した発注者(お客様や上司)のことを無視して自分の仕事はこうだと決めつけてしまうと、発見や学習うんぬんの前に、やり直しやクレームが起きてしまいます。
すると仕事を定義するというのは、仕事の相手と一緒に行うものであり、すり合わせるものだといえます。すり合わせるためには、お互いの理解を言葉で表現し、確認しあう必要があります。
それでは、まずはこの「仕事の定義」という観点から、言語化の方法について詳しく考えていきましょう。
・本ページは、書籍「長く成長していくための 仕事における言語化能力」の内容の一部を限定公開しているページです。他の公開中のトピックは「目次」から確認してください。