「学び方」を学ばせる

「この仕事のポイントは、これとこれだよ。まず1つ目のポイントについて説明するよ。具体的には◯◯を…」

というように、仕事をうまく進めるためのコツを細かく教え込んでいくという行為は骨が折れます。もちろん仕事経験ゼロの新入社員に対しては必要なことです。しかしいつまでもそのような丁寧な指導を継続することはできません。第一、あなたはそんなに暇ではないはずです。

常に細かく指導しすぎてしまうと、教わる側が自分の頭で考えなくなってしまいます。万が一、部下が「ポイントは教えてもらうもの」「教わっていないことはうまくできなくて当然」が当たり前だという認識になっていたら、それはあなたにも責任があります。それに、ひたすら解説(もしくは説教)を黙って聞かせるだけの一方的な指導は、相手を萎縮させ、気力を削いでしまいます。

そうならないための方法としておすすめしたいのが、「学び方」自体を指導するというアプローチです。学び方をつかんだ部下は、あなたに頼らなくても自分の力で成長することができます。それは本人のためでもあり、あなたの負担軽減という意味でも価値のあることです。具体的な方法は以下を参考にしてください。

「持論化」を仕事に含めてしまう

仕事から得られた学びを明らかにする、つまりこれまで説明してきた「持論化」も仕事に含めてしまいます。たとえば、

・初めて行う仕事については、簡単なものでいいので「実行する時の注意点」を考えてまとめることも、求める成果の中に含めてしまう

・すでに社内にマニュアルのある仕事を任せる場合、マニュアルのバージョンアップ(記載内容だけでは不十分だった箇所に加筆する)を仕事の完了条件に付け加える

・「この仕事を1ヶ月間やってもらうので、その間にこの仕事をやる時 の“持論”を最低3つは作っておいてね」というように、持論化を含めた指示を出しておく

・さまざまな仕事や役割について持論化を要求し、半期末や年度末の評価面談時に報告してもらう(評価の加点項目にする)

「部分の観察」を支援する

持論化の材料は自分の経験だけではありません。先輩・上司・同僚といった周囲の人の観察を通じて得られる発見もたくさんあります。ただし、せっかく観察の機会を与えても以下のようでは困ります。

・営業訪問に何度も同行させたのに「先輩すごいですね。私にはできません」で終わってしまった

・ずっと隣で分析作業を見ていたはずなのに「これどうやるのですか?と基本的な事をいつまでも聞いてくる。何を見ていたの?

そこで観察機会を与える時には「何を観察するか」を明確に指示しておくといいでしょう。

<例:営業訪問や会議に同席させる時>

「特にこういう所に注意して、お客様との会話の仕方を観察してね」

「どのような段取りで参加者をリードすればいいか、気づいたポイントを後で報告してね」

<何を観察させるか?(観察する「部分」)>

・準備の仕方、順序、段取り、タイミング、選択、判断など

・言動(説明の仕方、質問の仕方、意見の伝え方、ふるまい方など)

・成果物(レポート、企画書、提案書、議事録、報告書など)

仕事における観察は、観察対象である「他者の3点セット」を作成するようなものです。あの人は、どのような状況で、何をやって、どんな結果だったか。注意深く観察していれば、外からでも多くの情報を得ることができます。

観察をしたら終わりではなく、本質をつかむことにも挑戦させてみましょう。必要な情報は先述の「ねらい・意図・感想」のような、外からは見えにくい主観的な情報です。これらは本人に質問してみないとわかりません。観察を通じて良い発見をした部下がいたら、「どうしてそうしているのか、本人に教えてもらったら?」と更なる研究を促してはいかがでしょうか。

あなた自身が観察され、質問されたら真剣に答える

部下があなたのことを観察して「なぜ、このようなやり方をしたのですか?」と質問をしてくることもあるでしょう。あなたにとっては当たり前の事であったとしても手を抜かずに返答してください。

あるいは「そう言われてみれば意識してなかったな」と逆にあなたが気づかされることもあるかもしれません。そのような時もごまかさずに考えてください。


「いいから、こうやればいいんだよ」「習慣だよ」「常識だよ」「特に意識してないよ」…このような回答では、何も学ばせることができません。

持論は検証させる

前に述べたとおり、作ったばかりの持論は「こういうやり方が役に立つかもしれない」という仮説です。本当に役に立つかどうかは実際に試してみないとわかりません。前回はあまり意識をせずにやったことを今度は自分のやり方として意識的に試してみることで、作った持論がこの形でよいのか、少し手直しをしたほうがいいのかを判断できます。

持論を一度作っただけで満足している部下がいたら、検証を促してください。検証されないまま放置され、日の目を見ること無く忘れ去られる「持論になるはずだったもの」ほどもったいないものはありません。

「同じ1年を何度も繰り返す人」とは、言い換えると、
「持論になるはずだったものを大量生産している人」のことです。

迷惑な自己流

庭木と持論の共通点は「定期的に手入れをしないと、かえって邪魔で面倒なものになる」ということです。手入れを怠った持論の成れの果てが「迷惑な自己流」です。

「うるさい。自分はこのやり方で成功してきたんだ」
「いいから、俺の言う通りにしろ」
「ウチでは、このやり方が標準ですから」

身に染み付いてしまった持論にこだわるあまり、周りの変化に合わせられない。それどころか周りに押し付けて迷惑をかける。持論は目的を果たすための手段です。使うこと自体が目的になってはいけません。手段が目的化している部下がいないか注意してみましょう。

あなたが作った持論を解説する

あなたが作った持論が部下の仕事に役に立ちそうでしたら、伝授してみましょう。成功談でなくても構いません。「私も君と同じようにこんな苦労をしたことがあってね」というように、持論を編み出すまでの失敗談のほうが興味深く聞いてくれるかもしれません。目上の人から成功談ばかり延々と聞かされるのは疲れます。

持論を共有する場をつくる

部単位や課単位の会議といえば、「上層部からの伝達事項」と「その数字や計画は達成できるの?」が定番ですが、それだけではなく、四半期に一度くらいで構いませんから、たまには「何を学んだか」を発表する場を作ってみてはいかがでしょうか。



先輩の発表する持論は後輩にとってたいへん勉強になります。後輩の発表する持論は「うかうかしていると抜かれるぞ」と先輩を刺激してくれるかもしれません。チームの誰かが困っている事について、他のメンバーがすでに持論を編み出していることもあります。何人かの持論を合体させて、より効果が高くて広い範囲をカバーする「チームの方法論」をつくり出すことができるかもしれません。

1つだけ注意があります。部下が作ってきた持論について、あなたがどれだけ稚拙に感じたとしても、まずは自分で考えて作ってきたことを評価してあげてください。もしそこで「お前、そんな事も知らなかったの?」と言ってしまったら、もう報告してくれません。

たくさん作ってたくさん共有していけば、持論のレベルも上がっていきます。みんなで持論化に取り組み、持論の構造や作り方について理解を深めていくことも大切です。

ベテランから若手社員への技能継承を課題としている企業が多くあります。教える側の問題ばかり注目されがちですが、技能継承は教わる側にも相応の力が求められます。特に「状況+ねらい+やり方」のように構造的にとらえて理解を整理する視点は欠かせません。

このことは、一般的に普及しているスキルや手法を学ぶ時にも当てはまるのですが、それについては次のトピックで説明します。

・本ページは、書籍「部下の自立を引きだすための マネージャーの言語化支援」の内容の一部を限定公開しているページです。他の公開中のトピックは「目次」から確認してください。

「部下の自立を引きだすための マネージャーの言語化支援」
A5判 156ページ ¥1,800(税別)