質問によって言語化を支援する

マネージャー研修で「ペア・インタビュー」を行うことがあります。二人一組で質問をする役と答える役を交互に担当して、お互いの経験談を聞き出します。質問をする役は、「状況だけ」とか「結果だけ」など偏らないように気をつけながら、相手にさまざまな質問を投げかけて3点セットをまんべんなく聞き出します。前ページの質問リストを参照しながら行えばそれほど難しくはありません。

それでも、実際にやってみると、以下のような質問をするマネージャーがとても多いのです。

「それって、こうすべきだったのでは?」
「私だったら〜をやると思うけど、どう?」

これは、質問のふりをした意見です。
たぶん悪気は無いのでしょう。良かれと思って言っているのでしょう。「質問をしてくださいね」と何度促しても、つい、自分の言いたいことを言ってしまう。

日常業務の中で、部下の仕事を振り返る時も一緒です。色々言いたくなるのをぐっと我慢して、質問をして、部下に話をさせてみましょう。指導は、答えを教えるだけではありません。話をさせることによって、部下の言語化する力を高めることも、立派な指導です。

繰り返しになりますが、経験の記憶の仕方には個人差があります。「結果」はスラスラ言葉にできても「状況」や「言動」が思い出せない部下もいれば、「うまく出来たこと」と「出来なかったこと」で言語化の程度に差がある部下もいるでしょう。それを補うのがマネージャーの質問です。

慣れてきたら、最初から部下にこう伝えてはいかがでしょう。

「この仕事が終わったら、『3点セット』で報告してね」

一番手間がかからないのは、こうやって「3点セット」をあなたと部下の共通言語にすることです(あらかじめ3点セットとは何かを説明しておく必要があります)。仕事の成果がどうであれ、なぜ成功/失敗したのかが自覚できていることが大切です。経験の言語化が自覚を強化することに役立ちます。

部下が積極的に自分の経験を言語化して伝えてくれると、あなたも助かるはずです。部下が何をどの程度自覚しているかがわかり、適切な支援を提供しやすくなります。もし部下からの情報発信が何も無かったら何をしてあげればいいのかわかりません。このことについて、ある会社で起きた出来事を紹介します。

評価される側の責任

若手社員Aさんには、我慢できないことがありました。
ずっとやりたかった仕事を上司が任せてくれなかったのです。

その仕事の内容は自分の得意分野で、お客様からも「向いていると思うよ」と言われたことがあるくらい。かなり自信がありました。

ある時その仕事が自分の部署に割り当てられ、来期になったら自分と同期入社のBさんのどちらかが担当者になることを知りました。Aさんは、当然私だろうと楽しみにしていました。自分のほうがBさんよりもうまくできるはずと確信していました。

ところが期が変わって担当に任命されたのは、Bさんでした。
Aさんは落ち込みました。

「やりがいのある仕事ができそうだったのに、私にやらせてくれないなんて。あの人(上司)は私のことを何もわかっていない」

Aさんは我慢できなくなりました。しばらくしてから、勇気を出して上司に言いました。

「どうして私に任せてくれなかったのですか? 私は、あの分野に以前から関心を持っていて、自分で◯◯の勉強も続けていました。お客様からも△△の件で喜ばれたこともありました。
ですから、きっと私に任せていただけると信じていました」

黙って聞いていた上司は、ポツリと言いました。

「そうだったのか、今まで知らなかったよ」

さて、この上司を責めるべきでしょうか?
もちろん上司にはAさんの取り組みを把握して、正しく評価する責任があります。ですが、上司にも自分の仕事があります。他の部下もいます。毎日細かくAさんのことを観察することはできません。Aさんの働きぶりは、成果物や報告書、さらには「あの件どうだった?」と聞いた時の答え方など、さまざまな情報を総合して評価することになります。

上司には「Aさんのことを適切に評価するために情報を集める責任」があります。それと逆方向に同じだけ、Aさんにも「上司が適切な評価を行うために必要な情報を、自ら発信する責任」があるのです。

このことに気づいている部下は、決して多くはありません。
あなたの部下はいかがでしょうか?

自分にとってメリットがあることがわかれば、部下はあなたに対して積極的に情報発信をするようになります。それによってあなたはより部下を理解して評価や支援をすることができます。好循環です。

そのためにまず必要なのは、あなたが部下から「この人は、成功も失敗も、意見も感情も、自分のどんなことを言語化して表現しても、いったん全て受けとめてくれる」と思われていることです。

・本ページは、書籍「部下の自立を引きだすための マネージャーの言語化支援」の内容の一部を限定公開しているページです。他の公開中のトピックは「目次」から確認してください。

「部下の自立を引きだすための マネージャーの言語化支援」
A5判 156ページ ¥1,800(税別)